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東京高等裁判所 平成4年(行ケ)185号 判決

東京都新宿区西新宿2丁目6番1号

原告

カシオ計算機株式会社

代表者代表取締役

樫尾和雄

訴訟代理人弁理士

鈴江武彦

村松貞男

布施田勝正

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官

麻生渡

指定代理人

松尾浩太郎

徳永民雄

奥村寿一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が昭和61年審判第6131号事件について平成4年7月16日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和56年4月9日、名称を「メモリーパック」とする考案(以下「本願考案」という。)について実用新案登録出願をしたところ、昭和61年1月10日に拒絶査定を受けたので、審判を請求した。特許庁は、この請求を同年審判第6131号事件として審理し、平成3年4月8日に出願公告したが、登録異議の申立てがあり、平成4年7月16日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をした。

2  本願考案の要旨

電子機器に装脱可能なメモリーパックにおいて、上面側および下面側に開放部を有し、少なくとも一面側の外周部の内方に条溝が形成された合成樹脂からなるフレームに、該フレームのほぼ全体を覆う大きさの金属板からなり、少なくとも一方は前記フレームの条溝に嵌合される壁部を有する上部および下部一対の外装パネルを、夫々前記フレームの上部および下部に取付け、前記フレームの内部に複数の端子電極を有する回路基板および該回路基板に接続された集積回路チップからなる記憶素子を配置したことを特徴とするメモリーパック。(別紙図面1参照)

3  審決の理由の要点

審決の理由の要点は、別添審決書写しの理由欄記載のとおりである。〔なお、審判手続において甲第4号証として提示された実願昭52-33496号(実開昭53-129239号公報)の願書に最初に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(当審における甲第4号証の1)、及び昭和52年6月22日付け手続補正書(当審における甲第4号証の2)を以下「引用例」といい、引用例記載の考案を「引用考案」という。引用考案については別紙図面2参照。〕

4  審決を取り消すべき事由

審決の理由の要点のうち、本願考案を要件ごとに分説したもの、引用例の記載事項、本願考案と引用考案との相違点が審決認定のとおりであること、メモリーパックに回路基板および該回路基板に接続された集積回路チップからなる記憶素子を収納することは当業者に周知の事項であり、一般に、回路基板に端子電極を設けることは当業者が任意に実施している事項であることは認めるが、その余は争う。

審決は、本願考案と引用考案との一致点の認定を誤り、かつ、両者の相違点についての判断を誤って、本願考案の進歩性を否定したものであるから違法である。

(1)  一致点の認定の誤り(取消事由1)

審決は、本願考案における「フレーム」、「壁部を有する上部および下部一対の外装パネル」は、引用考案における「枠状中間部材」、「断面略台形状に加工された上部ケースおよび下部ケース」にそれぞれ相当し、本願考案における「集積回路チップからなる記憶素子」と引用考案における「大規模集積回路」は、ともに集積回路である点で一致していると認定した上、本願考案と引用考案とは審決摘示の点で一致していると認定しているが、以下述べるとおり誤りである。

まず、本願考案は「メモリーパック」に関する考案であるから、進歩性の判断の前提となる一致点の認定もメモリーパックに関する先行技術との対比においてなされるべきであるところ、引用考案は、メモリーパックとは技術分野をも異にする「小型電子式計算機」に関するものであって、電子機器への装脱や情報(信号)の供給を可能としている本願考案の構成要素の構造と、電子機器への装脱や情報(信号)の供給を全く考慮していない引用考案の構成要素の構造は必然的に相違する。そして、小型電子式計算機は、入力キーや表示装置を含み、人間が操作しやすい相当程度の大きさと厚さを必然的に有しているので、その強度の確保が容易であるのに対し、メモリーパックは小型電子式計算機に比べればはるかに小型・薄型であり、その強度の確保が困難である。本願考案は、小型電子式計算機に比較して、小型・薄型化が可能な反面、強度の確保が困難な「電子機器に装脱可能なメモリーパック」において、その要旨のとおりの構成としたことにより、小型・薄型化を実現しつつ、強度を確保するという特有の効果を達成したものであって、この構成は、「電子機器に装脱可能なメモリーパック」だからこそ意義のあることなのであって、この点も引用考案と相違する。

このように、本願考案と引用考案とは、全くかけ離れた要素を有するものであるにもかかわらず、審決は、一致点の認定に都合のよい部分のみを他の部分(部品)との関連や結合を無視して抽出し、機械的に対比して両考案につき一致点の認定をしたものであって、そのこと自体誤りである。

そして、本願考案と引用考案における構成要素の構造は、具体的に次のとおり相違している。すなわち、

引用考案の外装パネルは小型電子式計算機用のものであるから、入力キー、表示装置、電源スイッチ等用の開口(穴)を備える必要がある。これに対し、本願考案の外装パネルはメモリーパック用のものであるから、そのような開口を備える必要がない。また、引用考案の枠状中間部材は入力キーを操作可能に支持する構造、表示装置を外部から視認可能に支持する構造等を具備する必要がある。これに対し、本願考案のフレームはそのような構造を必要としない。さらに、引用考案の構成では、枠状中間部材、外装パネル、大規模集積回路は外部の電子機器に装脱される構造や外部の電子機器に情報(信号)を供給するための構造を備えない。これに対し、本願考案のフレーム、外装パネル、半導体集積回路は、電子機器への装脱や電子機器への情報(信号)の供給を可能とする構造や配置を有する。

以上のとおりであるから、本願考案における「フレーム」、「壁部を有する上部および下部一対の外装パネル」は、引用考案における「枠状中間部材」、「断面略台形状に加工された上部ケースおよび下部ケース」に相当するとした審決の認定は誤りである。

また、本願考案の「集積回路チップ」はデータを記憶する記憶素子であるの対し、引用考案の集積回路は、その性質上、演算装置が主体である。したがって、本願考案の「集積回路チップからなる記憶素子」と引用考案の大規模集積回路9を「集積回路である点で一致している」とした審決の認定も誤りである。

被告は、本願考案と引用考案はいずれも「内部に集積回路を収納した小型で携帯可能な装置」の構造であることを根拠として、審決の一致点の認定に誤りはない旨主張するが、この概念は両者を関連づけるために導入されたものであり、極端に広く曖昧なものであるから、この概念を根拠として一致点の認定をすることは失当である。

以上のとおりであるから、審決の一致点の認定は誤りである。

(2)  相違点〈3〉に対する判断の誤り(取消事由2)

「電子機器に装脱可能なメモリーパック」と小型電子式計算機がともに当業者に周知な装置であることは、審決指摘のとおりである。しかし、上記(1)のとおり、「電子機器に装脱可能なメモリーパック」と小型電子式計算機とは全く異なるものであり、両者が周知であること、及び「内部に集積回路を収納している」ことが、単純に両者を結び付ける理由にはならない。前記のとおり、本願考案の集積回路は記憶素子であるのに対し、引用考案の集積回路は演算素子等であり、その機能が全く異なる。それに伴って当然装置全体の作用や機能も異なる。この作用や機能の差を理解できる当業者ならば、集積回路を収納している点が一致しているという理由だけで、単純に、一方の構造を他方の構造に適用することはない。また、メモリーパックと小型電子式計算機がともに「小型で、携帯可能な装置」であるといっても、後者は入力キーや表示装置を備え、表示装置を見ながら入力キーを操作して使用できる程度の大きさが必要であるのに対し、前者は入力キーや表示装置を備えず、はるかに小型であるから、両者では、「小型」や「携帯可能な装置」の技術的意義が全く異なっており、小型電子式計算機のケースの構造を単純にメモリーパックのケースの構造に適用することはできない。さらに、本願考案のメモリーパックは、電子機器への装脱を可能とし、装脱に適した構造を必然的に有しているのに対し、少型電子式計算機は他の装置への装脱を全く考慮していない。したがって、小型電子式計算機のケース構造を、単純に「電子機器に装脱可能なメモリーパック」に適用すると、そのメモリーパックは電子機器への装脱が困難となり、電子機器への情報(信号)の供給も不可能になることは明らかである。

被告は、本願考案と引用考案を「内部に集積回路を収納した小型で携帯可能な装置の構造に関する技術分野に属するものであって、かつ、小型情報処理機器とでもいうべき同一の産業分野において生産されるもの」という抽象的で不明確な概念で関連づけているが誤りである。

以上のとおり、小型電子式計算機のケースの構造を「電子機器に装脱可能なメモリーパック」に適用することはきわめて容易にはできないことであり、相違点〈3〉に対する審決の判断は誤りである。

(3)  相違点〈1〉に対する判断の誤り(取消事由3)

フレームの条溝に外装パネルの壁部を嵌合する場合、種々の嵌合方法があり、嵌合方法により強度も変化する。例えば、フレームの条溝に外装パネルの壁部の先端のみを嵌合すると、パネル自体が変形しやすくなり、変形したパネルがフレームを歪ませ、かえって強度を弱めてしまう。強度的に最も優れた構成を採用するためには、回路基板や半導体チップはフレーム内部に配置されていなければならない。そこで、本願考案においては、回路基板等をフレーム内部に配置することにより、外装パネルの壁部をその根元までフレームの条溝に嵌合可能とし、その強度を最大限に高めることを可能としたものであって、特有の効果を有するものというべきである。

審決は、甲第5号証ないし第7号証(本訴における書証番号)を引用して、本願考案のように、一方の部材には条溝を設け、他方の部材には壁部を設けて、該条溝と該壁部とを嵌合して両方の部材を結合することは当業者に周知であるとしているが、これらの文献に開示されている条溝と壁部の嵌合構造は、小型電子式計算機の分野におけるものであって、本願考案におけるような条溝と壁部の嵌合構造が周知であることを裏付けるものではない。

仮に、小型電子機器等の分野において、フレームの条溝と金属パネルの壁部を嵌合させることが周知であったとしても、メモリーパックは小型電子式計算機等と比較して非常に小型・薄型であり、フレームに条溝を設け、そこに金属パネルの壁部を嵌合させるには、かなりの加工精度が要求され、かつ、金属パネルの加工精度を高めることは困難であるから、本願考案のように最大限の強度を確保するという明確な目的がなければ、メモリーパックの条溝と壁部の嵌合構造を採用することはできない。そして、本願考案は、回路基板等が内部に配置されたフレームに形成された条溝に外装パネルの壁部を嵌合するという特有の構成を採用し、それにより、強度を最大限に高めることが可能であるという特有の効果を有するものである。

以上のとおりであるから、本願考案のように条溝と壁部の嵌合構造を採用することは、当業者が電気機器の一般的なケース構造からきわめて容易に想到し得るものではなく、相違点〈1〉に対する審決の判断は誤りである。

(4)  相違点〈2〉に対する判断の誤り(取消事由4)

本願考案は、「フレームの内部に複数の端子電極を有する回路基板および該回路基板に接続された集積回路チップからなる記憶素子を配置した」という点に特徴があり、回路基板等をフレーム内部に配置することは、強度の確保が難しいメモリーパックにおいてこそ有効である。また、「電子機器に装脱されるメモリーパック」において、「複数の端子電極」とは、電子機器との間で信号、情報、データを授受するために、コネクタなどを介して電子機器に接続されるものであって、メモリーパックの信号の出入口であり、極めて重要なものである。本願考案は、この重要な端子電極を保護するため、端子電極を有する回路基板をフレーム内部に配置し、かつ、金属性の外装パネル内に保持しているのである。これらの点は、引用考案や甲第8、第9号証記載の考案と相違するところであって、本願考案の上記構成および効果は、引用例や甲第8、第9号証に開示の技術事項に基づいて、当業者がきわめて容易に想到し得るものではない。

しかるに審決は、本願考案の上記特徴等を無視して、上記の点について検討することなく、相違点〈2〉の点は格別のものとすることはできないとしているものであって誤りである。

第3  請求の原因に対する認否及び反論

1  請求の原因1ないし3は認める。同4は争う。審決の認定、判断に誤りはない。

2  反論

(1)  取消事由1について

本願考案も引用考案も、内部に集積回路を収納した小型で携帯可能な装置の構造に関する技術分野に属するものであり、内部に集積回路を収納した小型で携帯可能な装置の構造という点からみて、引用考案の「枠状中間部材」および「断面略台形状に加工された上部ケースおよび下部ケース」は、それぞれ本願考案の「フレーム」および「壁部を有する上部および下部一対の外装パネル」に相当し、また、引用考案における「大規模集積回路」は、集積回路である点で本願考案の「集積回路チップからなる記憶素子」に一致するものである。

原告は、本願考案の構成は、「電子機器に装着可能なメモリパック」だからこそ意義のあることである旨主張するが、前記のとおり、内部に集積回路を収納した小型で携帯可能な装置の構造という点からみて、引用考案と本願考案のそれぞれの構成要素が審決摘示のごとく対応する以上、両者が、「合成樹脂からなるフレームに、該フレームのほぼ全体を覆う大きさの金属板からなり、少なくとも一方は壁部を有する上部および下部一対の外装パネルを、夫々前記フレームの上部および下部に取り付け、前記フレームの内部に回路基板および該回路基板に接続された集積回路を配置した」ことで一致する点に変わりはない。

また、原告は、本願考案の「電子機器に装脱可能なメモリーパック」と他の機器への装脱を予定していない引用考案の小型電子式計算機とでは、その構成要素の構造が必然的に異なる旨、また、本願考案の「集積回路チップからなる記憶素子」と引用考案の大規模集積回路9を「集積回路である点で一致している」と認定するのは誤りである旨主張している。

しかしながら、「電子機器に装脱可能なメモリーパック」と他の機器への装脱を予定していない引用考案の小型電子式計算機とに構造上の差異があるとしても、本願考案は、電子機器に装脱可能であるための具体的構造を特定して、それを要旨としているわけではないので、原告の主張する構造上の差異の存在は、審決の結論に影響を与えるものではない。また、本願考案の「集積回路チップからなる記憶素子」と引用考案の大規模集積回路9とは、ともに集積回路であることは粉れもない事実であり、その余の点については相違点〈2〉として抽出し検討しているのであるから、本願考案の「集積回路チップからなる記憶素子」と引用考案の大規模集積回路9は「集積回路である点で一致している」とした審決の認定に誤りはない。

以上のとおりであるから、審決の一致点の認定に誤りはなく、取消事由1は理由がない。

(2)  取消事由2について

原告は、本願考案のメモリーパックは電子機器に装脱可能であり、装脱に適した構造を必然的に有する旨、したがって、引用例に開示された小型電子式計算機のケース構造を「電子機器に装脱可能なメモリーパック」に適用することは、当業者がきわめて容易に達成できることではない旨主張している。

しかしながら、本願考案の「電子機器に装脱可能なメモリーパック」は、電子機器に装脱可能であるための具体的構造を特定し、それを要旨としているわけではないので、原告の上記主張は、実用新案登録請求の範囲の記載に基づかないものであり、失当である。

本願考案も引用考案も、内部に集積回路を収納した小型で携帯可能な装置の構造に関する技術分野に属するものであり、かつ、メモリーパックも小型電子式計算機も小型情報処理機器とでもいうべき同一の産業分野において生産されるものであるから、引用例に開示された「小型電子式計算機」のケースの構造を本願考案の「電子機器に装脱可能なメモリーパック」のケースの構造に適用することは、当業者がきわめて容易に想到し得ることであり、相違点〈3〉について、この点を格別のものとすることはできないとした審決の判断に誤りはなく、取消事由2は理由がない。

(3)  取消事由3について

電子機器のケースの構造において、一方の部材には条溝を設け、他方の部材には壁部を設けて、該条溝と該壁部とを嵌合して両方の部材を結合することは、甲第5ないし第7号証によっても明らかなとおり、当業者に周知の事項にすぎず、回路基板等が内部に配置されたフレームと外装パネルに相当するものが引用例に記載されているのであるから、回路基板等が内部に配置されたフレームに形成された条溝に外装パネルの壁部を嵌合することは、当業者がきわめて容易に想到し得るものであり、強度が高まるという効果も当業者に自明である。

また、フレーム内部に回路基板等を配置することと、フレームの条溝と外装パネルの壁部を嵌合させることとに、これら双方を満たすようにケースの構造を構成することが困難なものとさせる格別の関連及び重要性は存在しないから、この点に採用の困難性と特有の効果があるとする原告の主張は理由がない。

原告は、メモリーパックは非常に小型・薄型であり、フレームに条溝を設け、そこに金属パネルの壁部を嵌合させるにはかなりの加工精度が要求され、かつ、金属パネルの加工精度を高めることは困難であるから、最大限の強度を確保するという明確な目的がなければ、メモリーパックに条溝と壁部を嵌合構造を採用し得ない旨主張するが、金属パネルの加工精度を高めるとそれだけ加工が困難になるとしても、フレームに条溝を設け、そこに金属パネルの壁部を嵌合させる構成を考案すること自体が困難なものとなるわけではない。

以上のとおりであっって、相違点〈1〉に対する審決の判断に誤りはなく、取消事由3は理由がない。

(4)  取消事由4について

メモリーパックに回路基板および該回路基板に接続された集積回路チップからなる記憶素子を収納することは、当業者に周知の事項にすぎない。また、一般に、回路基板に端子電極を設けることは当業者が任意に実施している事項にすぎないから、引用考案の回路基板に端子電極を形成することは、当業者がきわめて容易になし得ることである。

原告は、審決が本願考案の特徴である回路基板等をフレームの内部に配置した点やその効果、重要な端子電極を保護するため、端子電極を有する回路基板をフレーム内部に配置し、かつ、金属性の外装パネル内に保持して保護していることなどを無視し、これらの点について検討することなく、その挙示する理由により、相違〈2〉は格別のものとすることはできないとした判断は誤りである旨主張する。

しかしながら、メモリーパックに回路基板及び該回路基板に接続された集積回路チップからなる記憶素子を収納することが当業者に周知の事項か否かということと、回路基板等をフレームの内部に配慮した点とは何ら関連がないから、原告の上記主張は、相違点〈2〉に対する判断の誤りをいうものとしては主張自体失当である。

以上のとおりであって、相違点〈2〉に対する審決の判断に誤りはなく、取消事由4は理由がない。

第4  証拠

証拠関係は書証目録記載のとおりである(書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。)

理由

1  請求の原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。

2  本願考案の概要

甲第2号証(本願公告公報)及び第3号証(手続補正書)によれば、次の事実が認められる。

メモリーパックのケースは、従来、合成樹脂からなる一対のケース体を組み合わせて構成されているが、この合成樹脂製のケースは、機械的強度をもたせるために肉厚を大きくしなければならず、そのために従来のメモリーパックはその厚さがかなり厚いため、小型電子機器のメモリーパック収納部も大きくしなければならなかった。本願考案は、ケースの機械的強度を保ちながら全体の薄型化を図ることができるメモリーパックを提供することを目的として、前記要旨のとおりの構成を採用したものである。

3  取消事由に対する判断

(1)  引用例に審決摘示の記載があること、本願考案と引用考案との相違点が審決認定のとおりであることは当事者間に争いがない。

(2)  取消事由1について

〈1〉  前示本願考案の要旨記載のとおり、本願考案のメモリーパックは、複数の端子電極を有する回路基板および回路基板に接続された集積回路チップからなる記憶素子を収納するケースを、フレームの上部および下部に上部および下部一対の外装パネルを被せて取り付けた構造としたものである。これに対し、当事者間に争いのない上記(1)のとおり、引用考案の小形電子式計算機は、回路基板および回路基板に接続された大規模集積回路を収納するケースを、枠状中間部材の上部および下部に上部ケースと下部ケースを被せて取り付けた構造としたものである。

ところで、本願考案の「集積回路チップからなる記憶素子」と引用考案の「大規模集積回路」が、ともに集積回路という点で一致していることは明らかであるから、本願考案と引用考案は、いずれも内部に集積回路を収納する小型のケースの構造に関するものであるという点で技術分野を共通にするものというべきである。そして、前示本願考案の要旨及び引用例の記載によれば、本願考案の「フレーム」と引用考案の「枠状中間部材」は、いずれも上面側および下面側に開放部を有し、合成樹脂からなるものであって、その内部に集積回路が配置されているものであり、本願考案の「壁部を有する上部および下部一対の外装パネル」と引用考案の「断面略台形状に加工された上部ケースおよび下部ケース」は、それぞれ「フレーム」、「枠状中間部材」のほぼ全体を覆う大きさの金属板からなるものであって、「フレームの上部および下部」、「枠状中間部材の上部および下部」に取り付けられるものであるから、本願考案の「フレーム」と引用考案の「枠状中間部材」、本願考案の「壁部を有する上部および下部一対の外装パネル」と引用考案の「断面略台形状に加工された上部ケースおよび下部ケース」は、それぞれ内部に集積回路を収納する小型のケースを構成する態様として相対応し、その材質も一致しているものと認められる。

したがって、本願考案における「フレーム」、「壁部を有する上部および下部一対の外装パネル」は、それぞれ引用考案における「枠状中間部材」、「断面略台形状に加工された上部ケースおよび下部ケース」に相当するものとし、また、「集積回路チップからなる記憶素子」も「大規模集積回路」も集積回路という点で一致しているとした審決の認定に誤りはない。

〈2〉  原告は、本願考案は「メモリーパック」に関する考案であるから、進歩性の判断の前提となる一致点の認定もメモリーパックに関する先行技術との対比においてなされるべきであうところ、引用考案は、本願考案とは技術分野をも異にするものである旨主張する。

しかし、出願に係る考案の進歩性判断の前提となる一致点の認定は、当該考案の技術内容と対比すべき先行技術が共通の技術分野に属することを前提としてなされるべきものであって、先行技術との対比を同一の物品をもってしなければならないというものでないことは、実用新案法3条2項の規定の趣旨に照らしても明らかであり、本願考案と引用考案が、いずれも内部に集積回路を収納する小型のケースの構造に関するものであるという点で技術分野を共通にするものであることは前記のとおりである。そして、本願考案と引用考案の対象となる物品が、「電子機器に装脱可能なメモリーパック」、「小型電子式計算機」と異なる点については、審決において、相違点〈3〉として取り上げられ、判断されているところである。また、原告は、本願考案の構成は、小型電子式計算機に比較して、小型・薄型化が可能な反面、強度の確保が困難な「電子機器に装脱可能なメモリーパック」だからこそ意義のあることなのであって、この点は引用考案と相違する旨主張するが、本願考案と引用考案は、前記各部材が構成的態様において相対応し、「合成樹脂からなるフレームに、該フレームのほぼ全体を覆う大きさの金属板からなり、少なくとも一方は壁部を有する上部および下部一対の外装パネルを、夫々前記フレームの上部および下部に取付け、前記フレームの内部に回路基板および該回路基板に接続された集積回路を配置した」点で一致するものである以上、上記主張は、両者の構成上の一致点の認定の誤りを主張するものとしては意味のあるものとは認められない。

したがって、上記各主張を前提としてなされた、「本願考案と引用考案とは、全くかけ離れた要素を有するものであるにもかかわらず、審決は、一致点の認定に都合のよい部分のみを他の部分(部品)との関連や結合を無視して抽出し、機械的に対比して両考案につき一致点の認定をしたものであって、そのこと自体誤りである。」旨の原告の主張は理由がない。

次に、本願考案のメモリーパックと引用考案の小型電子式計算機の各用途・機能が相違し、そのために、本願考案の「フレーム」、「上部および下部一対の外装パネル」と引用考案の「枠状中間部材」、「上部および下部ケース」との間に、具体的な構造の点でそれぞれ相違するところがあり、また、本願考案の「集積回路からなる記憶素子」と引用考案の「大規模集積回路」とが異なった作用を奏するものとして用いられていることは、原告の主張するとおりである。

しかし、本願考案は、内部に集積回路を収納する小型のケースの構造に関するものであって、「フレーム」や「上部および下部一対の外装パネル」について、電子機器への装脱や情報(信号)の供給を可能とするための具体的構造を特定し、それを要旨としているわけではなく、したがって、先行技術との対比においてもその点は取り上げる必要のない事項であるから、審決が、両考案における上記各部材の具体的構造に触れることなく、各部材の材質や、内部に集積回路を収納する小型のケースを構成する態様の点から一致点の認定をしたことに誤りはなく、これに反する原告の主張は理由がない。また、回路基板および集積回路について、審決は、本願考案においては複数の端子電極を有する回路基板であり、集積回路チップからなる記憶素子であるのに対し、引用考案においてはそのようになっていない点で相違しているとしているのであるから(相違点〈2〉)、「(両考案は)フレームの内部に回路基板および該回路基板に接続された集積回路を配置したものである点で一致している。」とした審決の認定に誤りはない。

〈3〉  以上のとおりであって、審決の一致点の認定に誤りはなく、取消事由1は理由がない。

(3)  取消事由2について

〈1〉  「電子機器に装脱可能なメモリーパック」と小型電子式計算機がともに当業者に周知の装置であることは、当事者間に争いがない。そして、本願考案と引用考案は、内部に集積回路を収納する小型のケースの構造に関するものであるという点で技術分野を共通にするものであることは前記のとおりであり、メモリーパックと小型電子式計算機はいずれも小型の情報処理機器とでもいうべき同一の産業分野に属するものというべきであるから、引用例に記載された小型電子式計算機のケースの構造を、本願考案の「電子機器に装脱可能なメモリーパック」のケースの構造に適用することは、当業者がきわめて容易に想到し得る事項であると認めるのが相当である。

〈2〉  原告は、メモリーパックと小型電子式計算機の作用や機能の差を理解できる当業者ならば、集積回路を収納している点で一致しているというだけで、単純に、一方の構造を他方の構造に適用することはない旨主張するが、メモリーパックと小型電子式計算機の作用や機能の差が、引用例記載のケースの構造を本願考案のケースの構造に適用することの妨げになるものとは認め難く、上記主張は採用できない。

また、原告は、メモリーパックと小型電子式計算機とでは、「小型」といってもその技術的意義が全く異なっており、小型電子式計算機のケースの構造をメモリーパックのケースの構造に適用することはできない旨主張するが、本願考案のメモリーパックが入力キーや表示装置等を備えないからといって、集積回路を内部に収納する点において共通する小型電子式計算機のケースの構造自体を適用することを困難ならしめるものとは認め難く、上記主張は採用できない。

さらに、原告は、本願考案のメモリーパックは電子機器への装脱を可能とし、装脱に適した構造を必然的に有しているのに対し、小型電子式計算機は他への装脱を全く考慮していないから、引用考案の小型電子式計算機のケースの構造を、単純に「電子機器に装脱可能なメモリーパック」に適用すると、そのメモリパックは電子機器への装脱が困難となり、電子機器への情報(信号)の供給も不可能になることは明らかである旨主張する。

しかし、引用例記載の小型電子式計算機のケースの構造を、本願考案の「電子機器に装脱可能なメモリーパック」のケースの構造に適用するといっても、引用例記載の小型電子式計算機のケースを構成する部材の具体的構造もそのままにして適用するというものではなく、引用例に開示されているケースの構造を電子機器への装脱に適したものに設計変更して用いるものであることは当然のことであって、原告の上記主張は理由がない。

〈3〉  以上のとおりであって、相違点〈3〉に対する審決の判断に誤りはなく、取消事由2は理由がない。

(4)  取消事由3について

〈1〉  甲第5号証(実願昭53-146645号(実開昭55-61739号公報)の願書に添付した明細書および図面の内容を撮影したマイクロフィルム)記載の考案は「薄型電子式卓上計算機」に係るものであって、同計算機はケース本体の上下両カバー部の周縁部間に形成される間隙を封鎖するためのスペーサを有するが、同号証の第2図には、上下両カバー部の周縁端部がスペーサに設けられた条溝に嵌合するように取り付けられているものが記載されていることが認められる(別紙図面3の第2図参照)。甲第6号証(実開昭55-31141号公報)記載の考案は「電子式卓上計算機」に係るものであって、同号証の第2図には、下部ケースの端部の折り曲げた部分が上部ケースに設けられた条溝に嵌合して重ね合ったものが記載されていることが認められる(別紙図面4の第2図参照)。甲第7号証(実開昭54-20334号公報)記載の考案は「電気部品の収容ケース」に係るものであって、同号証には、ケース本体側板の側縁を基板に設けられた嵌合溝に嵌合したものが記載されていることが認められる(別紙図面5の第2図、第3図参照)。

これらの認定事実によれば、電気機器のケースの構造において、一方の部材には条溝を設け、他方の部材には壁部を設けて、条溝と壁部とを嵌合して両方の部材を結合することは当業者に周知の事項と認めるのが相当である。

そして、引用例には、本願考案の「壁部を有する上部および下部一対の外装パネル」に相当する「断面略台形状に加工された上部ケースおよび下部ケース」を、本願考案の「フレーム」に相当する、回路基板等が内部に配置された「枠状中間部材」の上部および下部に取付けることが記載されているのであるから、上記周知の技術を適用して、本願考案のように、回路基板等を内部に配置したフレームに条溝を形成し、その条溝に外装パネルの壁部を嵌合することは、当業者において容易に想到し得ることであり、この構成を採用することによって、ケースの機械的強度が高まるという効果が得られることも当業者に容易に予測し得ることと認めるのが相当である。

〈2〉  原告は、メモリーパックは小型電子式計算機と比較して非常に小型・薄型であり、フレームに条溝を設け、そこに金属パネルの壁部を嵌合させるには、かなりの加工精度が要求され、金属パネルの加工精度を高めることは困難であるから、本願考案のように最大限の強度を確保するという明確な目的がなければ、メモリーパックの条溝と壁部の嵌合構造を採用することはできず、しかも、本願考案は、回路基板等が内部に配置されたフレームに形成された条溝に外装パネルの壁部を嵌合するという特有の構成を採用し、それにより、強度を最大限に高めることが可能であるという特有の効果を有しているものであって、本願考案のように条溝と壁部の嵌合構造を採用することは、当業者が電気機器の一般的なケース構造からきわめて容易に想到し得るものではない旨主張する。

しかし、金属パネルの壁部をフレームの条溝に嵌合させるために、金属パネルの加工精度を高めることが要求され、それだけ加工が困難になるにしても、上記のとおり、電気機器のケースの構造において、一方の部材には条溝を設け、他方の部材には壁部を設けて、条溝と壁部とを嵌合して両方の部材を結合することは当業者に周知の事項であり、そのような構成を採用した場合には機械的強度の増大が得られることは当業者にとって明らかな事項といってよいから、メモリーパックのケースの機械的強度を得るために、フレームに条溝を形成し、そこに金属パネルの壁部を嵌合させる構成を考案すること自体は容易に想到し得るものというべきである。そして、フレームの内部に回路基板および回路基板に接続された集積回路を配置することは、引用考案においても採用されているところであって、この点が、本願考案に特有の構成であるということはできないし、このような構成が、フレームに条溝を形成し、その条溝に外装パネルの壁部を嵌合させることを想到することを困難ならしめるものとも認め難い。

したがって、原告の上記主張は理由がない。

〈3〉  以上のとおりであって、相違点〈1〉に対する審決の判断に誤りはなく、取消事由3は理由がない。

(5)  取消事由4について

〈1〉  メモリーパックに回路基板および回路基板に接続された集積回路チップからなる記憶素子を収納することは当業者に周知の事項であること、及び一般に、回路基板に端子電極を設けることは当業者が任意に実施している事項であることは、当事者間に争いがない。

〈2〉  原告は、審決が、本願考案の特徴である、回路基板等をフレームの内部に配置した構成を採用することの技術的困難性や効果等について検討することなく、その挙示する理由により相違点〈2〉の点は格別のものとすることはできないとした判断は誤りである旨主張する。

しかし、相違点〈2〉は、本願考案と引用考案における回路基板及び集積回路の構成自体に係るものであるから、原告が主張するフレームの内部に回路基板等を配置することの技術的困難性や、その構成によってもたらされる効果は、相違点〈2〉とは関係のない事項である。のみならず、回路基板等をフレーム内に配置することは同じ技術分野に属する引用考案に示されているところであり、具体的な配置については本願考案の要旨とされていないだけでなく、機器の特性に応じて当業者が適宜設計すべき事項であるから、相違点〈2〉の判断につき、審決が原告主張の点に触れなかったとしても、違法ということはできない。

〈3〉  以上のとおりであって、相違点〈2〉に対する審決の判断に誤りはなく、取消事由4は理由がない。

4  よって、原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 濵崎浩一 裁判官 押切瞳)

昭和61年審判第6131号

審決

東京都新宿区西新宿2丁目6番1号

講求人 カシオ計算機株式会社

東京都千代田区霞が関3丁目7番2号 鈴榮内外國特許事務所内

代理人弁理士 鈴江武彦

東京都千代田区霞が関3丁目7番2号 鈴榮内外國特許事務所内

代理人弁理士 村松貞男

東京都千代田区霞が関3丁目7番2号 鈴榮内外國特許事務所内

代理人弁理士 坪井淳

昭和56年実用新案登録願第51087号「メモリーパック」拒絶査定に対する審判事件(平成3年4月8日出願公告、実公平3-16158)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

Ⅰ.本願は、昭和56年4月9日の出願であって、その考案の要旨は、出願公告された明細書と図面、および平成4年1月21日付け手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲に記載されたとおりの「メモリーパック」にあるものと認められ、これを要件ごとに分けて記載すると、次のとおりである。「(イ)電子機器に装脱可能なメモリーパックにおいて、

(ロ)上面側および下面側に開放部を有し、少なくとも一面側の外周部の内方に条溝が形成された合成樹脂からなるフレームに、

(ハ)該フレームのほぼ全体を覆う大きさの金属板からなり、少なくとも一方は前記フレームの条溝に嵌合される壁部を有する上部および下部一対の外装パネルを、夫々前記フレームの上部および下部に取付け、

(ニ)前記フレームの内部に複数の端子電極を有する回路基板および該回路基板に接続された集積回路チップからなる記憶素子を配置した

(イ)ことを特徴とするメモリーパック」

Ⅱ.これに対して、当審における実用新案登録異議申立人増田光吉が甲第4号証として提示した実願昭52-33496号(実開昭53-129239号公報)の願書に最初に添付した明細書および図面の内容を撮影したマイクロフィルムには、その昭和52年6月22日付け手続補正書により浄書された明細書第3頁第13行~第19行に「第1図は本実施例による小型電子式計算機の外観を示すもので、この計算機1の本体は、例えばアルミニウムあるいはステンレス等の金属を断面略台形状に加工した上、下部ケース2、3を合成樹脂による枠状中間部材4を介して嵌合した構造となって居り、」と記載され、さらに、同明細書第4頁第7行~第15行に「また、第3図は第1図に示した小型電子式計算機1のA-A線に沿った断面図であり、圧電素子8が重合接着された下部ケース3及び上部ケース2間には演算装置及び圧電素子8の駆動回路等より成る大規模集積回路(LSI)9、置数あるいは結果数等を表示する為の例えば液晶等の表示体10及びその他の電気部品が所定の電気的結合をもって載置された回路基板11が収納されている。」と記載され、また、その第1図および第3図の記載から、回路基板11が枠状中間部材4の内部に収納されるものであることを読み取ることができる。

以上のことから、甲第4号証には、

(ロ’)上面側および下面側に開放部を有し、合成樹脂からなる枠状中間部材に、

(ハ’)該枠状中間部材のほぼ全体を覆う大きさの金属板からなり、断面略台形状に加工された上部ケースおよび下部ケースを夫々前記枠状中間部材の上部および下部に取付け、

(ニ’)前記枠状中間部材の内部に回路基板および該回路基板に接続された大規模集積回路を配置した

(イ’)小型電子式計算機

が記載されているものと認められる。

Ⅲ.本願考案(以下、「前者」という。)と上記甲第4号証に記載されたもの(以下、「後者」という。)とを比較する。

ここで、前者における(ロ)「フレーム」および(ハ)「壁部を有する上部および下部一対の外装パネル」は、それぞれ、後者における(ロ’)「枠状中間部材」および(ハ’)「断面略台形状に加工された上部ケースおよび下部ケース」に相当する。また、前者における(ニ)の「集積回路チップからなる記憶素子」と後者における(ニ)の「大規模集積回路」は、ともに集積回路である点で一致している。

したがって、両者は、上面側および下面側に開放部を有し、合成樹脂からなるフレームに、該フレームのほぼ全体を覆う大ぎさの金属板からなり、少なくとも一方は壁部を有する上部および下部一対の外装パネルを、夫々前記フレームの上部および下部に取付け、前記フレームの内部に回路基板および該回路基板に接続された集積回路を配置したものである点で一致しているが、次の〈1〉~〈3〉の点で相違している。

〈1〉フレームが、前者(ロ)においては、それの少なくとも一面側の外周部の内方に条溝を形成し、該条溝に少なくとも一方の外装パネルの壁部を嵌合しているのに対し、後者(ロ)においてはそのようになっていない点

〈2〉回路基板および集積回路が、前者(ニ)においては、複数の端子電極を有する回路基板であり、集積回路チップからなる記憶素子であるのに対し、後者(ニ’)においてはそのようになっていない点

〈3〉対象となる物品が、前者(イ)は「電子機器に装脱可能なメモリーパック」であるのに対し、後者(イ’)は「小型電子式計算機」である点

上記各相違点について検討する。

〈1〉について

一般に、電気機器のケースの構造において、前者のように、一方の部材には条溝を設け、他方の部材には壁部を設けて、該条溝と該壁部とを嵌合して両方の部材を結合することは当業者に周知の事項にすぎない(必要ならば、上記実用新案登録異議申立人が提示した甲第6号証(実願昭53-146645号(実開昭55-61739号公報)の願書に添付した明細書および図面の内容を撮影したマイクロフィルム)、実開昭55-31141号公報(第2図)、実開昭54-20334号公報などを参照されたい。)。したがって、この点は当業者がきわめて容易になし得る設計変更程度の事項にすぎない。また、条溝と壁部とを嵌合させることにより強度が高まるという効果も、当業者に自明の効果にすぎない。

〈2〉について

メモリーパックに回路基板および該回路基板に接続された集積回路チップからなる記憶素子を収納することは当業者に周知の事項にすぎない(必要ならば、特開昭54-4020号公報、特開昭55-56639号公報などを参照されたい。)。また、一般に、回路基板に端子電極を設けることは当業者が任意に実施している事項にすぎない。したがって、この点を格別のものとすることはできない。

〈3〉について

電子機器に装脱可能なメモリーパックも小型電子式計算機も当業者に周知の装置である。そして、それらは、内部に集積回路を収納した小型で、携帯可能な装置であるという共通点を有しており、かつ、ともに同一の産業分野に属するものと認められる。してみれば、小型電子式計算機のケースの溝造を電子機器に装脱可能なメモリーパックのケースに適用することは、当業者がきわめて容易に想到し得る事項であるといわざるを得ない。したがって、この点を格別のものとすることはできない。

Ⅳ.したがって、本願考案は、上記甲第4号証に記載されたものおよび周知事項に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録をうけることができない。

よって、結論のとおり審決する。

平成4年7月16日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

別紙図面1

〈省略〉

〈省略〉

別紙図面2

〈省略〉

別紙図面3

〈省略〉

別紙図面4

〈省略〉

別紙図面5

〈省略〉

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